プロ野球の記録あれこれ

プロ野球の記録を斜め読みします

一死二塁は無死一塁より、どのくらい得点が入りやすいか。

 かつてはプロ野球においても、試合の序盤で回の先頭打者が一塁に出ると、犠牲バントをするのが「定石」とされていました。近年は、2番打者に強打者を配置する打順も見られるなど、初回1番打者が出塁すると2番打者は犠牲バント、ということは少なくとも当然の作戦ではなくなったように思います。しかし今でも僅差の試合の終盤では犠牲バントは多用されます。

 一死二塁は無死一塁よりどのくらい得点が入りやすいのかを調べてみました。

プロ野球「無死満塁は点にならない」はどの程度本当か。

 「無死満塁は点にならない。」とは、野球では時々耳にする言葉です。それはどの程度本当なのか、調べてみよう、という気になりました。


 2021年度の日本のプロ野球全公式戦858試合(交流戦含む。オープン戦、五輪期間中の練習試合、クライマックスシリーズ日本シリーズは含めない)について調査した結果をこれから少しずつ記してていきたいと思います。

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無死満塁


0.はじめに

(1)言葉の定義「攻撃回」について

 この記事では、「攻撃回」という言葉を次の意味で使います。1回表が1攻撃回、1回裏が1攻撃回、すなわち1回の表と裏で2攻撃回と数えることにします。

  1.  通常の9回裏までの試合には18攻撃回があることになります。

    例 2021年3月27日 オリックス 対 福岡ソフトバンク

    福岡ソフトバンク 0 2 0 0 0 0 1 0 0 |3
    オリックス         0 1 0 0 0 0 0 0 0 |1        攻撃回は18

  2.  9回裏に決勝点が入りサヨナラゲームとなった試合も18攻撃回があることになります。

    例 2021年9月7日 広島東洋 対 中日

     中日    0 0 0 1 0 3 0 3 0 |7
     広島東洋  2 0 0 0 0 0 1 0 5X|8         攻撃回は18

  3.  9回表終了時点で後攻チームがリードしていて、9回表で終了した試合は17攻撃回があることになります。

    例 2021年4月4日 横浜DeNA 対 広島東洋

     広島東洋   0 0 0 0 0 0 0 1 0 |1
     横浜DeNA 0 0 1 1 1 0 0 0 X |3  9回裏がないので攻撃回は17           

  4.  コールドゲームでは、通常の試合より少ない攻撃回で終わることがあります。

    例 2021年月4日 東京ヤクルト 対 埼玉西武

     埼玉西武   0 0 1 0 0         |1
     東京ヤクルト 1 5 4 0 0X        |10

    5回裏途中でコールドゲーム。5回裏は攻撃回に数えず、攻撃回は9。

    ただしこの場合、もし東京ヤクルトが5回裏に1点以上入れていた場合は、5回裏終了前コールドゲームとなっても、5回裏の点は有効になるので、5回裏は攻撃回に数える。         

 2021年度の日本のプロ野球公式戦は、新型コロナウィルス感染対策として、延長戦は行われませんでした。もし延長戦があれば、1試合に18を超える攻撃回のある試合もあったでしょう。

 2021年度の日本のプロ野球全公式戦858試合の攻撃回を合計すると、15069攻撃回になります。

(2)「無死満塁」について

 この記事中の「無死満塁」は、各攻撃回の先頭打者と次打者、そのまた次打者の3人で無死満塁になった場合のみ、点が入っていない時点で無死満塁になった場合に限定することにしました。点が1点でも入ってから無死満塁になった場合は集計に含めていません。例えば攻撃回の先頭打者が本塁打を打って1点が入り、それ以降の3人の打者で無死満塁になった場合は集計に含めていません。

(3)この記事の正確性について

 この記事のデータは、一個人によって集められたものです。誠意を持って集計しましたが、誤りがある可能性を否定できません。その点はご了解ください。

 もしこの記事に誤りがあって、そのためにお読みいただいている方が何らかの損害を被ったとしても、私は責任を負いかねますので、ご了解ください。

1.無死満塁からどのくらい点が入ったか

(1)全チーム合計

 2021年度の日本のプロ野球全公式戦の15069攻撃回のうち、先頭打者と次打者、そのまた次打者の3人で無死満塁になったのは140攻撃回ありました。そのうち得点が入ったのが118攻撃回、84.3%になります。つまり得点が入らなかったのは22攻撃回、15.7%になります。多いといえば多い、そうでもないと言えばそうでもないような割合と思いました。

 無死満塁から7得点以上の得点が記録されたのは次の3攻撃回です。

5月19日 読売対広島東洋        6回表 広島東洋     9得点

9月4日 福岡ソフトバンクオリックス 5回裏 福岡ソフトバンク 8得点

4月6日 埼玉西武東北楽天      6回表 東北楽天     7得点

 6得点以下の得点が記録された攻撃回は次のとおりです。

6得点 5攻撃回  5得点 4攻撃回  4得点 20攻撃回

3得点 18攻撃回  2得点 35攻撃回  1得点 33攻撃回  無得点 22攻撃回

 無死満塁から1点だけ、あるいは2点だけ記録された攻撃回も多く、全体のほぼ半数(48.6%)を占めます。「思ったほど点が入らない」という印象から「無死満塁は点にならない」という言葉につながった側面もあるのかもしれません。

 また上記のデータから無死満塁から合計311得点が入ったことになります。これを無死満塁になった140攻撃回で割ると、無死満塁になった攻撃回は平均で2.22得点記録されたことになります。

 

 余談ですが、7月4日(日)から11日(日)までの間に、無死満塁が無得点に終わる攻撃回が続出しました。この8日間に7攻撃回。年間通して22攻撃回なので、この期間だけとても高頻度だったといっていいでしょう。

7月4日 広島東洋阪神        5回表 阪神     無得点
7月6日 読売対中日          6回表 読売     無得点
7月7日 広島東洋対横浜DeNA    6回表 横浜DeNA 無得点
7月7日 千葉ロッテ福岡ソフトバンク 5回裏 千葉ロッテ  無得点
7月10日 東京ヤクルト広島東洋    6回表 広島東洋   無得点
同日   同試合            8回裏 東京ヤクルト 無得点
7月11日 中日対横浜DeNA      6回表 横浜DeNA 無得点

7月10日の東京ヤクルト広島東洋では、両チームが一度ずつ「無死満塁無得点」を喫しています。

(2)チーム別

 先頭打者と次打者、そのまた次打者の3人で無死満塁になった後の得点について、チーム別に集計しました。
           そのうち得点が 
                    無死満塁    入った      無得点  平均得点
東京ヤクルト  18      16      88.9%     2     3
読売      12      11      91.7%     1     2.55
阪神      14      12      87.5%     2     2.67
広島東洋    10          9      90  %      1     3.78
中日      11      11    100  %      0     1.73
横浜DeNA  17      13      76.5%      4     2.08
オリックス    9          8      88.9%     1     3.38
千葉ロッテ   11      10      90.9%      1     2
東北楽天    13          8      61.5%      5     2.88
福岡ソフトバンク 5          4      80 %     1     3.75
北海道日本ハム 11          8      72.7%      3     2.5
埼玉西武     9          8      88.9%      1     2.25

  無死満塁の好機を全て得点に結びつけたのは、12球団の中で中日だけでした。ところが大量得点に結びつけることはなかなかできませんでした。11攻撃回の無死満塁からの得点のうち1得点に終わったのが6攻撃回、2得点が3攻撃回、3得点1攻撃回、最多得点が4得点で1攻撃回、平均は1.73と12球団で最低でした。

 一方、オリックスは無死満塁になった9攻撃回のうち、4得点以上が4攻撃回(44.4%)、広島東洋は無死満塁になった10攻撃回のうち、4得点以上が4攻撃回(40%)、東京ヤクルトは無死満塁になった18攻撃回のうち、4得点以上が7攻撃回(38.9%)と、絶好機を大量得点に結びつけました。

(3)イニング別

 「(1)全チーム合計」の余談で、7月前半に無死満塁から得点が入らない攻撃回が多かったと書きましたが、この期間に無死満塁から得点が入らなかったのが5回と6回に集中しています。では年間通してどのイニングが無死満塁から得点が入らない場合が多いかを調べました。

           そのうち得点が 
                    無死満塁   入った        無得点  平均得点
1回表裏     17      17      100  %     0           2.77      
2回表裏     20      15        75  %     5         1.05
3回表裏     14      14      100  %     0         2.71
4回表裏     15      12        80  %     3         2.13
5回表裏          15      11        73.3%     4         2.33
6回表裏     21      16       76.2%      5        2.14
7回表裏     18      17       94.4%      1        2.61
8回表裏     10       8        80  %      2        2.2
9回表裏        10         8        80  %      2        2.4

 1回表裏、3回表裏は無死満塁から必ず得点が入っているのに、2回表裏は無得点に終わる場合が多い結果になりました。しかも2回表裏で無死満塁になった攻撃回で3得点以上入ったことが1度もありません。無得点5回、1得点9回、2得点6回。無死満塁からの平均得点が2回表裏はわずかに1.05という驚くべき低さです。
 5回表裏も無得点に終わる割合は高いですが、3得点以上入った攻撃回も6回あり、平均得点では他のイニングと遜色ありません。
 なお最も平均得点の高い1回表裏は、3得点以上入った攻撃回は8回を数え、3回表裏も、3得点以上入った攻撃回は7回を数えます。

2.無死満塁からの得点は、一死から二死からでも入るか。

 無死満塁になってすぐ次の打者が打ち取られると、「無死満塁になって最初の打者で点が入らないとなかなか点が入らないんですよね。」とテレビやラジオの野球解説者が話すことがあります。そうなのかなと思って調べてみました。

 前述の通り、この記事では「無死満塁」は各攻撃回の先頭打者と次打者、そのまた次打者の3人で無死満塁になった場合のみ、点が入っていない時点で無死満塁になった場合に限定しています。

 無死満塁からの得点は次の場合に分類できます。
①無死満塁からすぐ得点が入る。つまり攻撃が始まって4人目の打者の攻撃で得点が入る。
②一死満塁になってから得点が入る。つまり攻撃が始まって5人目の打者の攻撃で得点が入る。
③二死満塁になってから得点が入る。つまり攻撃が始まって6人目の打者の攻撃で得点が入る。
 この3つの場合がそれぞれどの程度あるのか調べました。
 上記①には、4人目の打者の攻撃中に投手の暴投、ボーク、捕手の捕逸等、打者の打撃と関係なく得点が入った場合を含みます。
 同様に、②③も打者の打撃と関係なく得点が入った場合を含みます。
 本来は、上記①②③以外の場合として、例えば
 無死満塁から打者がいわゆるホームゲッツーを喫し二死二三塁になった後に得点が入る、
 無死満塁からスクイズ失敗などで一死二三塁になった後に得点が入る、
等も考えられますが、2021年度のプロ野球で無死満塁から得点が入った場合ではこれらのような例はなく、無死満塁から得点が入った118例全てが、上記の①②③のいずれかに該当しています。

 無死満塁になった140攻撃回のうち、
①無死満塁からすぐ得点が入ったのは86攻撃回。
①に該当しない54攻撃回のうち、
 一死満塁になってから得点が入ったのは24攻撃回。
②に該当しない30攻撃回のうち、
 二死満塁になってから得点が入ったのは8攻撃回。
④無得点に終わったのが22攻撃回。

 無死満塁からすぐ得点が入ったのは140攻撃回中86攻撃回、61.4%。
 上記以外の54攻撃回中、一死からまたは二死から得点が入ったのは上記②③より、32攻撃回、59.3%でした。

 無死満塁からすぐに得点が入る場合も、一死または二死から得点が入る場合もいずれも約6割なので、必ずしも「無死満塁から最初の打者で点が入らないと点が入らない」ということはないように思います。ただ「最初の打者で得点が入らない」ということは、無死満塁になってから得点が入るまで時間がかかるわけで、「なかなか点が入らない」という感覚になるのはやむを得ないように思えます。